怪しげな雰囲気の研究室で、
泉 竜次博士はその瞳をきらと輝かせた。
「遂に……遂に完成したぞ!」
彼の掌には、にゃんこの形をした苺色のラムネ菓子が誇らしげに光っている。
傍らに立つ助手の
五十嵐 尚輝が、眠たげな声でぽつぽつと言った。
「やりましたね、泉博士。……おめでとうございます」
「何、君の協力のお陰だ」
にやりと口の端を上げて、泉博士は手の中のラムネ菓子を宝物のようにそっと握る。
「これさえあれば、長きに渡る『アーク』との戦いを終わらせることができる」
「『ヒーローズ・プロジェクト』――正義の政府サマの大勝利、というわけですか」
くつ、と皮肉るように喉を鳴らす五十嵐。
泉博士が不審げに五十嵐の方を見遣った、その瞬間。
――ドスッ。
背後から襲った鈍い痛みに、泉博士はその場に倒れ伏した。
その手から零れ落ちたラムネ菓子を、無感情に拾い上げる五十嵐。
いつの間にか現れて泉博士を襲った女が、ふっと小さく笑みを漏らした。
「お疲れさん、五十嵐……今は『助手』だったっけ。随分と長い任務になったねぇ」
「そうですかね、ミス・タカノ。ですが……それも今日で終わりだと思うと名残惜しい」
1ミリも名残惜しいとは思っていなさそうな五十嵐の様子に、
高野 有紀は豪快に笑う。
「カカカカ! 相変わらずだねぇ、あんたも。……さて、そろそろ引き上げるよ」
話の続きは本部に戻ってからだと、高野は研究所の分厚い壁を拳の一撃で破壊した。
◇
「――というわけで、マジヤバいんスよ! オレら政府側は大ピンチッス!」
前日夜に起こった出来事の説明を、そう締め括ったのは
南波 太陽。
喋り口こそチャラいが、彼は政府が抱える中でもかなり腕利きのエージェントだ。
「あっ、泉博士は無事ッス。ハイパー・ロッコーンの研究データも根こそぎ奪われたわけじゃないとか」
ハイパー・ロッコーンとは、特殊能力ロッコーンの力を一時的に進化させる技術のことだ。
なお、生まれながらにしてロッコーンを備え持った特別な人間を、モレイビーと呼ぶ。
多数のモレイビーをエージェントとして抱えているのが現政府だ。
全ては――反政府組織『アーク』に、この国を渡さぬ為に。
「で、データの痕跡を敢えて残したってことは、向こうは政府との全面戦争を望んでるんじゃね? 的な?」
政府を一方的に叩き潰したいならば、必要なデータ以外は全て破壊してしまえばいい。
ならば、ハイパー・ロッコーンを用いた、モレイビー同士の今まで以上に熾烈な争い。
それこそが、『アーク』の望むところだと推察された。
「っつーことで、大戦争の始まりッスよ~!」
言って、太陽はラムネ菓子――ハイパー・ロッコーン技術の結晶を取り出したのだった。
お世話になっております、巴めろと申します。
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以下、本シナリオの詳細な説明になります。
このシナリオの世界観
舞台は、ちょっぴりSF風なバトルもの少年漫画っぽいパラレルワールド。
この世界では、政府と悪の組織それぞれに所属するエージェント、
異能力者・モレイビーによる戦いが長く続いています。
政府が開発に成功したハイパー・ロッコーン技術が悪の組織の手に渡ったことにより、
戦いはより熾烈なものへと形を変えようとしています――。
☆用語集☆
○『ヒーローズ・プロジェクト』
長く続く現政府により設立された、非政府派異能力者対策組織。
後述のモレイビーを中心に多くのエージェントを擁しています。
現政府による治世は一見非常に安定しているため、
民間人からは組織の人間は基本的に『正義の味方』と認識されています。
但し、政府は不満を持つ者は抑圧・排斥する等の手段を取ることを厭いませんので、
後述の『アーク』に所属する人間を始めとする反政府派も少なくありません。
エージェントには政府の闇を知っている者も知らない者も存在しています。
○『アーク』
打倒現政府を掲げて『ヒーローズ・プロジェクト』と敵対する反政府組織。
政府側と同じく多くのエージェントを抱えた大規模な組織です。
民間人からは基本的に『悪の組織』だと恐れられていますが、
政府を倒すことで国をより良い方向に導きたいという確固たる信念の元活動しています。
但し、理想の実現の為には手段を選ばないというそれこそ悪役じみた一面もあります。
○モレイビー
生まれながらにして特殊能力・ロッコーンを備え持った特別な人間。
その多くは政府側・反政府側いずれかのエージェントとして戦いに赴く運命ですが、
正義の為、家族の為、金の為、理想の為、己の居場所を守る為、
或いは幼い頃から戦う為だけに育てられたり純粋に戦闘狂だったりと、
彼らが戦う理由は本当に様々です。
また、現実世界のもれいびとは一切関係はございませんので、
現実世界ではもれいびだけどこの世界では敢えて非能力者だったり、
現実世界とは全く異なる特殊能力を有していたり、
現実世界では普通の人間ながらこの世界ではモレイビーだったりと、
お好きな設定をPC様に付与してお楽しみいただけますと幸いでございます。
○ロッコーン
モレイビーが1人につき1つだけ備え持つ特殊能力。
現実世界のろっこんとは一切関係はございませんが、
能力に関するルール等は基本的にろっこんを参考にマスターが判断いたします。
このシナリオで認められたロッコーンが通常のろっこん審査でも認められるとは限りません。
ロッコーンには、戦闘特化型のものも存在する他、
民間人の前でも問題なく能力を発動することができます。
なお、あまりにチートと判断される能力は設定できず、調整の対象となります。
○ハイパー・ロッコーン
ガイドに登場したラムネ菓子を食べることで、一時的にロッコーンを進化させる超技術。
現在、全てのモレイビーに特殊ラムネ菓子の携帯・使用が許可されております。
ロッコーンを可視化・具現化させ、交流したり戦わせたりする、
ロッコーンと一体化し、魔法少女やヒーロー、天使や悪魔等の姿に変身する……等々、
自由な発想でハイパー・ロッコーンを操ってくださいませ。
但し、あまりにもチートと判断される能力は調整の対象となります。
このシナリオでできること
市街地に『アーク』が攻め込んできたところからのスタートです。
己の信じるものの為に戦い、勝利条件を達成することが目的となっています。
戦場にはPC様方以外にもエージェントが多数いる他、
民間人の避難もまだ完璧には済んでいない状況です。
下記から属する勢力をどれかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【A】【B】【C】と記入してください。
【A】『ヒーロー・プロジェクト』所属
所謂『正義の味方』側となります。
より多くの『アーク』のエージェントを倒し、撃退することが勝利条件です。
【B】『アーク』所属
所謂『悪の組織』側となります。
より被害を大きくして、政府の無能さを民間人に知らしめることが勝利条件です。
【C】その他
いずれの組織にも所属せず活動する方はこちらをお選びください。
定められた目的はなく、第三勢力となるもただの民間人として逃げ惑うも自由です。
また、所属勢力を選んだ上で、この世界でのPC様の設定は基本的にご自由にどうぞ。
・政府側のエージェントながら実は『アーク』と通じている
・政府の秘密計画で生み出された生きた殺戮兵器
・正義の為に反政府側を鼓舞する革命の乙女
等々、お好みの設定を盛り盛りしてくださいませ! 但し、
・『決して負けることのない最強無敵の』エージェント
のような、他の参加者様の設定を間接的に決定づけてしまう設定等はご遠慮ください。
問題があると判断した設定は、調整の対象となります。
なお、設定は可能な限り詳細にアクションにご記入いただくことをお勧めいたします。
性格や口調等も、現実世界とは全く別のものに設定していただくことが可能ですが、
こちらご希望の場合はその内容を必ずアクション内にご記入くださいませ。
登場NPCについて
○泉 竜次 博士
『ヒーローズ・プロジェクト』所属。
ハイパー・ロッコーン技術を完成させた天才技術者であると共に、
彼自身もモレイビーかつ一流のエージェントでもあります。
長く前線からは身を引いていましたが己の開発した技術が『アーク』の手に渡ったことで、
この度の戦いにて再び戦線復帰することを決めました。
権力や名声には一切興味がなく、戦いの終結を目的とし政府側についています。
ロッコーンは『掌を広げ念じることで掌を中心に攻撃を跳ね返すバリアを張る』。
○南波 太陽
『ヒーローズ・プロジェクト』所属のモレイビーでやり手のエージェント。
チャラい所は変わらずですが、現実の太陽と違って非常に頭が良く切れ者です。
戦闘で家族を失い、自ら望んで政府側のエージェントとなりました。
笑顔の裏には、『アーク』に所属する人間への強い敵意が隠れています。
ロッコーンは『移動したい先を視認し手を叩くことで瞬間移動ができる』。
○五十嵐 尚輝
『アーク』所属のモレイビーで研究者兼エージェント。
『実験をこよなく愛する無害な人間』を自称しますが、
敵方の人間や民間人、仲間や組織に己自身すら彼にとっては実験体です。
感情が薄くある意味冷酷、国の行く末さえ彼にとっては些事であり、
ただひたすら、己が求める実験の為だけに『アーク』に所属しています。
ロッコーンは『危機を察知した時に小鳥型の爆弾を召喚できる』。
○高野 有紀
『アーク』所属のモレイビーでベテランのエージェント。
幼少期に『保護』という名目で政府によって家族から引き離され、
エージェントとしての厳しい訓練を受けていましたが、
隙を見て脱走したところを『アーク』のエージェントに拾われて今に至ります。
政府への憎しみと『アーク』への恩義が彼女の戦う理由です。
ロッコーンは『己の手の甲にキスすることで身体能力を一時的に向上させる』。
また、このシナリオでは登場NPCと関係を結ぶこともできます。
生き別れの兄弟・戦友でライバル・恋人同士等々基本的に設定は自由ですが、
・『唯一無二の』親友
・『一番』弟子
等、他の方の設定に影響を及ぼしてしまう設定は採用いたしかねます。
なお、特定のNPCに恋人が二人、のような状況も起こり得ますので、
その点ご了承の上でNPCとの関係は設定してくださいませ。
また、このシナリオでの関係は現実世界での関係とは一切関わりがございません。
それでは、パラレルな特殊能力バトルをお楽しみいただけますと幸いです。
ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!